東京大学経済学部図書館が東洋経済新報社から寄贈を受けた「工鉱業関係会社報告書」には、1930〜40年代の日本経済研究に欠かすことのできない基礎的な情報が含まれている。今まで公開される機会もほとんどなく、新発見に近い貴重な資料といえる。本マイクロフィルム版では、すべての報告書を収録した。
終戦から1ヶ月余りの昭和20年9月19日付けで、連合国軍総司令部の経済科学局長クレーマー (R.C.Kramer) 大佐は、中央連絡委員会に対し、昭和19年事業年度において事業総額百万円以上の工鉱業関係会社の報告書の提出を求める、次のような通達を出した。
エーピーオー第五〇〇號
昭和二十年九月十九日
聯合軍最高司令官事務所
経済科學課長 アール・シー・ケレーマア大佐
中央連絡委員会御中
工鑛業關係會社報告書提出ノ件
|
| 一、 |
昭和十九年事業年度ニ於テ事業総額百萬圓以上ノ本邦各工鑛業關係會社ニ付添附様式ニ基キ報告書ヲ提出スベキコト
|
| 二、 |
前項報告書ハ英文ヲ以テ「タイプ」シ用紙ハ縦横十一吋及八吋ノモノヲ用フベキコト
添附書類一件(報告書様式)
報告諸様式(報告ハ縦横十一吋及八吋ノ用紙「タイプ」ノコト)
|
| A |
名稱
所在地(工場又ハ鑛山ニシテ二以上ノ場合ニ於テハ其ノ番號竝所在地)
會社ノ概要
|
| B |
創立ノ時期、重要拡張事項、合併又ハ合同事項、種々時期ニ於ケル生産品目ヲ含ム社歴、本邦外所在支店、出張所又ハ關係店状況、本邦内所在ノ出張所又ハ關係店ノ名稱竝其ノ支配ノ割合
|
| C |
昭和五年以降ニ於ケル事業年度末貸借対照表、同前事業年度損益計算書
|
| D |
會社ノ現在債務ニ対シ五パーセント以上ノ債権ヲ有スル個人又ハ會社ノ氏名又ハ名稱、住所並事業關係
|
| E |
會社所有者又ハ株主ノ数
|
| F |
昭和五年以降各年度ニ於ケル主要生産品目別、價格別生産額
|
| G |
工場ノ現有設備状況
|
| H |
昭和十九年九月一日現在ニ於ケル財産目録ニ記載ノ原料、製品、半製品及燃料状況
|
| I |
左記事項
1.生産豫定品目
2.右ノ各数量
3.右ノ昭和十五年ニ於ケル價格
4.右ノ販売予定價格
|
本表は三十日以内ニ提出スベキコト
|
|
これを受けて日本政府は、9月29日に農林・商工省令第1号「昭和20年勅令第542号に基き工鉱業関係会社報告書に関する件左の通定む」を公布した。省令では、昭和5年以降ではなく、昭和10年以降の10年間の実績。また、(D)の債権者が、出資者・株主に改められている。収録された報告書も省令に従っている。
報告書提出会社は、日本全土におよび、当時の該当企業数と比較すると、収録会社数の2272は、網羅的といえる数である。総司令部は、設備や生産物など物的な側面と、企業の資本関係などに関心を示しており、営業報告書には含まれていない設備状況や生産実績などの得難いデータが報告されている。生産予定品目の項目からは、平時産業への営業方針転換の模索を知る事もできる。
このような調査は、戦前・戦後期を通して行われた事はなく、当時の我国の経済研究をするには不可欠な資料である。
|