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「戦時企業」の実態解明にとっても貴重

京都大学経済学部教授 下谷 政弘

 今回、さきの証券処理調整協議会資料の「協議会資料編」に続いて「企業別資料編」が刊行されることとなった。さきの「協議会資料編」では協議会活動における会議資料など、持株会社整理委員会に委譲された株式の処理を通じて戦後の「証券民主化」を目指した活動の一端が明らかにされた。今回の「企業別資料編」では、1700社近くの企業について、個別企業ごとに有価証券の処理の内容などについて追跡できる。そこには、それぞれ、1940年以降の企業沿革のほか、大株主のリスト、戦時中の配当率、株式の種類、役員や従業員数、関係会社や取引銀行、などが記載されている。これまで戦争末期から敗戦直後の混乱の中にあった日本企業の状況については、乏しい資料を断片的につぎはぎするしかなかったから、今回の「企業別資料編」の刊行は当時の企業経営の実態解明にとって貴重である。とくに、戦争経済の中であわただしく誕生し敗戦後の数年のうちに消滅していったいわゆる「戦時企業」の実態の解明にとって貴重である。たとえば、松下電器グループは戦争末期に松下飛行機や松下造船などの企業を設立したが、これらの「戦時企業」は短命であり、必ずしも資料は十分ではなかった。
 日本では敗戦後の1947年に独占禁止法が新たに制定され、当初、その10条で事業会社による他社株所有を禁止していた。このことはよく知られている。いわゆる「証券民主化」政策の一環であるが、この10条の規定は1949年の第一次改正で緩和された。興味深いのは、このこととの関連である。というのは、企業がそれぞれ提出した「会社調査表」や「会社概要書」はちょうどその前後の頃の株式所有の変化を記述しているからである。今回の「企業別資料編」を用いての分析の成果が期待される。

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