早稲田大学商学部教授 宮島 英昭
今回「証券処理調整協議会資料」がマイクロフィルムの形で公刊される。本資料は、「協議会会議録」や「専門委員会議事録」、さらに個々の企業株の放出実態を示す資料を含み、その内容は包括的かつ体系的である。これほどまとまった形で証券処理調整協議会関係の資料が残っていたことに小さな驚きを覚えた。
周知のように戦後改革期の旧財閥家族や持株会社の保有証券の強制譲渡、財産税の物納などによって日本の大企業の所有構造に発生した変化はドラスチックであり、これまでも多くの研究者の関心を集めてきた。もっとも、資料上の制約もあって、従来の研究は、財閥解体措置などによる保有証券の持株会社整理委員会への強制譲渡の側面に焦点があてられ、敗戦時の大企業の所有構造と1950年前後から公表される上場企業の所有構造のデータを比較する形で分析が進められてきた。そのため、持株会社整理委員会にいったん譲渡された株式が、証券処理調整協議会を通じていかにして処分され、「証券民主化」が実現されたのかは充分明らかとされていなかった。それだけに今回の資料マイクロ化の意義は大きい。
従業員や地域住民の保有に高い優先順位がおかれた処分は実際にはどのように進められたのか、放出価格はいかに決定され、その価格水準はどのように評価できるのか。処分にあたって、個人株主の増加にともなうフリーライダー問題の発生、乗っ取りの可能性の上昇による経営への悪影響といった企業統治面の問題はどの程度意識されていたのか、こうした問題が、同資料の目録から直ちに想起されるトピックである。また、企業再建整備後の増資のプロセスと、証券処理調整協議会の株式放出との関係、あるいは49年末の株価急落に対する同協議会の対応なども興味を惹くテーマである。戦後改革期は、日本企業の所有構造、広く企業統治の大転換期であった。本資料を基礎にこの方面の分析がさらに進展することを期待したい。