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雄松堂Net Pinus 62ゲスナー賞授賞式>総評 紀田順一郎

Net Pinus 62号

ゲスナー賞授賞式

2005/12/27
ご挨拶 新田満夫氏
受賞写真
総評 紀田順一郎氏
選評 高宮利行氏
選評 林望氏
受賞者コメント 森澤嘉昭氏
総評をする紀田氏
紀田順一郎氏

総評 紀田順一郎

 これまで審査員として第1回ゲスナー賞より、応募作品400点以上を見てきました。作品の大半が目録や研究書であり、それらは長い年月をかけて作成されたものですから、その人のキャリアや人生が内容に反映されています。こういった作品は新書や単行本が400冊あるのとは違って重量感があります。

 今回の82点の応募作品を拝見して、今までに増して素晴らしい本が集まったと感じました。

「目録・索引」部門 金賞
『日本の近代活字 本木昌造とその周辺』
『日本の近代活字 本木昌造とその周辺』編纂委員会編著
『日本の近代活字 本木昌造とその周辺』

 今回金賞に輝いた本書はこれほどの重量感のある本はめったにないと驚きました。内容は本木昌造の生涯をまとめ、彼の業績である蝋型電胎法の成功を紹介したものですが、その際、古書を調べてまとめるだけという紙の上での知識として紹介するのではなく、実験して当時のまま現代に再現しようとした大変な意欲作です。その様子・過程に解説を加えて誰でもわかるようになっています。細かく深い知識を得られる様に書かれていてすばらしい内容であると思います。

 造本も美しく、ここまでやるかというくらいに徹底した精神が込められています。このような試みの本は、今までになかったわけでもないですが、本書は群を抜いているということで、金賞に推薦させていただきました。活字を研究すると言うことにどのような意味があるかということは最初の2-3ページで明らかになります。金属活字がよみがえることはないでしょうが、あらゆる近代の局面を開き、現代の文化を築きあげてきたこと、現代のデジタルフォントが金属活字の伝統の上に成り立っていると納得させてくれる作品です。実験的手法を通じて体感的に活字文化の重要性や、技術が文化を形作っていくことの大切さを教えてくれた清々しい本、重量感のある本ということで金賞に至ったわけです。

「目録・索引」部門 銀賞
『あるサラリーマン・コレクションの軌跡 〜戦後日本美術の場所〜』
周南市美術博物館 赤松祐樹編
『あるサラリーマン・コレクションの軌跡 〜戦後日本美術の場所〜』

 あるサラリーマンというのは美術収集家の間では著名な方(笹木繁男氏)ですが、彼のサラリーマン人生40年にわたる収集が反映されています。元は展示会用に作ったカタログですが、単なるカタログを越えています。私はこれを見て非常に驚き、ゲスナー賞に推薦させていただきました。一市民サラリーマンが収集したその成果がここにあるわけです。しかしただ集めただけでなく、視点・絵の見方が個性的でありながら的確で、一ページ一ページをじっくり見ていると、戦後の日本美術界を実感させられます。一枚一枚の絵と対話しているような、そしてこの向こう側にコレクターの姿が見えてくるような気にさえなっていくようです。公開されないのは惜しいので、これを機に単行本として出版されてはどうかと思う次第です。

「目録・索引」部門 銀賞
『南方熊楠邸蔵書目録/南方熊楠邸資料目録』
南方熊楠資料研究会編
『南方熊楠邸蔵書目録/南方熊楠邸資料目録』

 個人的に南方熊楠の蔵書や日記帳の一部を拝見したことがありますが、大変な量でとても整理できるものではないと思われていました。この学者南方熊楠の膨大な資料・蔵書を余すところなく、それこそ米国ダンカンやキャラメルの箱に至るまで収録している、徹底した目録作りです。蔵書を見ているといろんな発見がありますが、南方熊楠とは愛書家だったのだなと感じました。どの本も何度も読んでいるはずなのに大変きれいに保管されている。洋書にもカバーがかけられ古書店にある本よりよほどきれいで非常に驚き、不遜ながらも親しみを感じました。以前、蔵書を見たときはどこに何があるかさっぱり解らなかったのですが、これは非常によく整理されていて、この目録が南方研究の基礎になるだろうと確信させる非常によい作品で、銀賞にさせていただきました。

南方熊楠資料研究会HPにてゲスナー賞受賞のコメントが掲載されています。

「本の本」部門 銀賞
『装丁探索』
大貫伸樹著
『装丁探索』

 今まで装丁というと単に豪華本などが中心だったのですが、多くの人に読まれてきた伝本のようなものや、針金綴じの歴史とはどういったものかを収録しており、また、夏目漱石の装幀を担当した橋口五葉など著名な装丁家も紹介するなど、装幀に関心がある、一般の人のための本となっています。なぜ今までこのような本がなかったのか。一冊一冊実物を手に入れ、丁寧にご覧になって書いている、まさに装丁研究の本道を行くものでしょう。

「本の本」部門 銀賞
『本道樂』
中野三敏著
『本道樂』

 本を研究対象としていると、先達の研究家や古書店の主人といった人との関係がでてきます。本書はこうした人たちについて触れている書物エッセイの本道といえる一冊です。近年は江戸文学研究や近世国文学研究の出版が盛んになってきていますが、中野先生のサジェスチョンがあってのものだと思います。このような方のエッセイが読みたいと思っていたところに丁度この本が出てきて、非常に安心して読ませていただきました。

「本の本」部門 銀賞
『本ができるまで』
岩波書店編集部編
『本ができるまで』

 25年続く岩波ジュニア新書の1冊ですが、本についての一番基礎的な知識を若い人に、勿論若い人だけではありませんが、読んでもらう本がやっと出たという思いです。本の各部の名称から、印刷・製本の過程まで、よく説明されています。昔、岩波写真文庫で『本の話(*1953.11刊)』という本がありました。私たちはそれを読んで、本について知ったのですが、それに該当するものです。

 こういった若い人にも分かり易い本はいくら出てきてもよいと思っています。学校にも薦められる良い本です。

総評をする紀田順一郎氏
総評をする紀田順一郎氏

 その他の入選作も、どれも素晴らしい本ばかりでした。読書離れ・活字離れなどと言われはじめてもう20年ほどになりますが、ある意味その極点まで達した時に、このような力強い作品がたくさんでてきて、活字文化とは根が深いものでなかなか滅びるものではないのだな、という思いを強くしました。受賞作を中心にこのような作品が出てきたことを心強く感じ、選考にあたったこの数ヶ月間は非常に幸せな時間を過ごせました。

62号 2005/12/26
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