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雄松堂Net Pinus 62ゲスナー賞授賞式>「目録・索引」部門 選評 林望氏

Net Pinus 62号

ゲスナー賞授賞式

2005/12/27
ご挨拶 新田満夫氏
受賞写真
総評 紀田順一郎氏
選評 高宮利行氏
選評 林望氏
受賞者コメント 森澤嘉昭氏


「目録・索引」部門 選評 林望

 ◆事情により当日欠席だったため文章化されたものをそのまま掲載しています。

「目録・索引」部門 金賞
『日本の近代活字 本木昌造とその周辺』
『日本の近代活字 本木昌造とその周辺』編纂委員会編著
『日本の近代活字 本木昌造とその周辺』

  幕末から明治にかけて、日本の近代活字印刷を確立した本木昌造を巡って周到精緻に実証論述した大労作である。

 歴史は、何もないところに突如として何かが起るということはあり得ないもので、一つの事象が興起するについてはその拠って来る所が必ずある。したがって一つの史実を明らかにするということは、この意味で時間軸に添っての因果ならびに変遷を明らかにし、同時にその周囲の事実関係をも各方面から審らかにして初めて、史実が明らかになったと言うことができる。

 従来、古版経や五山版、あるいは室町末から近世初頭にかけての古活字印刷やその後の整版への回帰については相当に研究が進められてきたが、いっぽうで幕末から明治にかけての洋式活版印刷の受容と定着については、時代が近い分、いまだ考究されずに来たことは遺憾ながら事実であった。

 その従来未知未確定の事象について、その近代活字印刷の祖ともいうべき本木昌造を軸に、徹底的に論じ尽し実証し尽くした感のあるのが本書である。

 すなわち、日本に於ける古活字以来の印刷史を踏まえ、グーテンベルクの洋式印刷の黎明期を考究し、長崎通辞としての本木家について論じ、中国の活字印刷と本木が招聘した技師ウイリアム・ギャンブルを取り調べ、と考えうるあらゆる方向から、この近代活版の黎明期に光を当てていることは、まさに壮観である。しかもそのそれぞれの分野に望みうる最高の執筆者を揃え、おそらくこれ以上の論著は現今において望み得ない充実ぶりである。さらに、文中に夥しい図版を配しているが、それも適切に選定し、精妙にカラーで撮影・製版・印刷し、現代印刷術の水準を後世に示さんとの意気込みが感じられる。しかも、その一つ一つが有力な実証資料として物を言っているのも見事である。

 かれこれ、本文レイアウト並びに造本デザインの美しさまで含めて評価することとして、本書を金賞受賞作に決した。

「目録・索引」部門 銀賞
『あるサラリーマン・コレクションの軌跡 〜戦後日本美術の場所〜』
周南市美術博物館 赤松祐樹編
『あるサラリーマン・コレクションの軌跡 〜戦後日本美術の場所〜』

 本書は、さる匿名者が、そのサラリーマン生活四十年の間に蒐集した近現代の日本美術の中から99人133点を選んで公開した展覧会の図録である。展覧会は2003年から2004年にかけて、周南市美術博物館・東京三鷹市美術ギャラリー・福井県立美術館と巡回展示された。

 本賞は、公的機関が業務として作成した書誌目録よりも、一個人が高い志と非凡な努力を以て作り上げたものを顕彰したいと考える。この意味では、そもそもこのコレクションそのものが、蒐集者の人格を宿していると言ってもよいほどの、驚くべき達成であることをまず評価したい。しかも、別段富裕家でも大企業経営者でもない、ごく普通のサラリーマンが、まさに爪に火を点すようにして、ひたすら己の鑑識眼に信頼しながら集めたものであることが、より尊いのである。

 本図録には、絵画だけでなく、版画、写真、立体と、多岐に亙って掲載され、しかも全体を「私の好むもの」という意識が貫いている。好みといっても単なる趣味の範囲を超え、この蒐集を通して培われた深い知識と高い審美眼に貫かれて、鬱然たる美の森という相貌を見せている。面白いのは、各作品に、その蒐集を巡る経緯が、正直に語られていることで、それがまた蒐集現場の、極めて稀有の証言ともなっている。なお、この蒐集者は、現代版画の作家たちについて自ら調査蒐集した段ボール箱550箱に及ぶ資料も所蔵していたが、これは東京文化財研究所に寄託されて現在整理中の由。さらには、藤田嗣治についての網羅的研究をも現在蒐集者は続けておられるとのことで、将来これらの目録等の公刊もまた大いに期待される。

「目録・索引」部門 銀賞
『南方熊楠邸蔵書目録/南方熊楠邸資料目録』
南方熊楠資料研究会編
『南方熊楠邸蔵書目録/南方熊楠邸資料目録』

 伝説的碩学、南方熊楠の業績はあまりにも膨大で、未だにその全貌は明らかになっていない。しかし、尊ぶべく驚くべきことは、その没後も御遺族の並々ならぬ御尽力によって、彼の残した未刊の業績が、ほとんど片々たる寸紙に至るまで、散逸せざるように保存されてきたことである。

 しかるに、1987年、田辺市に南方熊楠邸保存顕彰会が結成されて、飯倉照平氏を初めとする多くの人々の努力がここに結集され、2004年8月に蔵書目録が、2005年3月に資料目録が編刊せられて、ここについに、その蔵書と資料のまったき姿を知ることができるようになった。

 とりわけ、この資料目録を見ると、よくもまあこれほどのものが、散逸せずに保存されてきたものだと、その御遺族の志に深甚の敬意を表するが、しかもそれを、年月、時には時間に至るまで明記し、あるいは寸法や枚数まできちんと記述したその目録作成の厳密周到な態度にも脱帽せざるを得ない。

 かれこれ、南方熊楠研究は、とくにその人文科学系統の研究は、これらの目録より始まるという意味で、本書は学問的に寄与するところが極めて大きいものと思料される。

南方熊楠資料研究会HPにてゲスナー賞受賞のコメントが掲載されています。
62号 2005/12/26
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