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幕末から明治にかけて、日本の近代活字印刷を確立した本木昌造を巡って周到精緻に実証論述した大労作である。
歴史は、何もないところに突如として何かが起るということはあり得ないもので、一つの事象が興起するについてはその拠って来る所が必ずある。したがって一つの史実を明らかにするということは、この意味で時間軸に添っての因果ならびに変遷を明らかにし、同時にその周囲の事実関係をも各方面から審らかにして初めて、史実が明らかになったと言うことができる。
従来、古版経や五山版、あるいは室町末から近世初頭にかけての古活字印刷やその後の整版への回帰については相当に研究が進められてきたが、いっぽうで幕末から明治にかけての洋式活版印刷の受容と定着については、時代が近い分、いまだ考究されずに来たことは遺憾ながら事実であった。
その従来未知未確定の事象について、その近代活字印刷の祖ともいうべき本木昌造を軸に、徹底的に論じ尽し実証し尽くした感のあるのが本書である。
すなわち、日本に於ける古活字以来の印刷史を踏まえ、グーテンベルクの洋式印刷の黎明期を考究し、長崎通辞としての本木家について論じ、中国の活字印刷と本木が招聘した技師ウイリアム・ギャンブルを取り調べ、と考えうるあらゆる方向から、この近代活版の黎明期に光を当てていることは、まさに壮観である。しかもそのそれぞれの分野に望みうる最高の執筆者を揃え、おそらくこれ以上の論著は現今において望み得ない充実ぶりである。さらに、文中に夥しい図版を配しているが、それも適切に選定し、精妙にカラーで撮影・製版・印刷し、現代印刷術の水準を後世に示さんとの意気込みが感じられる。しかも、その一つ一つが有力な実証資料として物を言っているのも見事である。
かれこれ、本文レイアウト並びに造本デザインの美しさまで含めて評価することとして、本書を金賞受賞作に決した。
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