今回ご紹介するのは、リチャード・ドイル画「野越え山越え大博覧会へ」 (An Overland Journey to the Great Exhibition.) という本です。表紙の大きさが縦13センチ、横18センチ、厚さ0.5ミリの横長の本です。この一見地味な細長く薄い本。そっと開いていけば、ちょっと驚く世界が広がっています。
リチャード・ドイル(Richard Doyle, 1824-83)は、19世紀イギリスの人気挿絵画家、諷刺画家で、『パンチ』の挿絵や妖精を描いたことで知られています。父親のジョンも画家であり、シャーロック・ホームズの生みの親であるコナン・ドイルはリチャード・ドイルの甥にあたります。
タイトルの「大博覧会」(Great Exhibition)というのは、1851年にロンドンで開催され、25カ国が参加し大成功を収めた国際博覧会のことです。現在の「万博」の初回といえばわかりやすいでしょうか。
この本は、その大博覧会へ向かう各国の参加者の一行を描いたものです。横7センチ幅で紙が折り畳まれており、絵巻物のような形式になっています。[写真2]
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写真2
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特別な説明文は一切ありませんが、人々のざわめきと当時の喧騒が今にもページの中から聞こえてきそうな本です。それでは、中を見てみましょう。
まず、先頭を切って行進しているのは、イギリスのジョン・ブル (John Bull: イギリスの擬人化された国家像)。「いざ水晶宮(The Crystal Palace)へ!」と一行を従えて進みます。後ろの楽団が音楽を奏で、行列を華やかに盛り立てます。[写真3]
次に続いているのは、フランスからの一行。フランス革命の象徴「自由の木」を皆で担ぎ、威厳を保ちつつ整然と一路水晶宮を目指します。[写真4]
それに続くのは、イタリアです。お国芸のオペラを披露しています。熱のこもった演技をしている役者とやや必死の楽団員。皆、少々自分達の演技に陶酔し過ぎているようにも見えますが?。[写真5]
たくさんの箒を持った女性と女の子2人。どこのお国の方かわかりかねるのが残念ですが、女性は行列に参加できて誇らし気な表情です。[写真6]
お次ぎはスコットランド。タータンチェック柄の洋服でビシッと決めています。スコッチ・ウィスキーが入っているのだろうと思われる大きなボトルを抱え、嬉しそうにしている者、ちょっと強ばった表情で丸太棒投げと砲丸投げを披露している者二人、ハイランドダンスを踊る者、バグパイプを奏でる者。三種三様ならぬ五種五様、スコットランドには色々な顔があるんだぞと言わんばかりの行進です。[写真7]
スペイン人は葉巻を大量に抱え、えっちらおっちら進みます。一人ではちょっと大変そう。[写真8]
プロイセンの楽団一行、生真面目にも音合わせ中。ほらほら、ちゃんと前を見て進まないと![写真9]
対照的なのは、巨大なジョッキを運びながらワイングラス片手に浮かれ騒ぐやから達。[写真10]
そして、こちらは巨大なパイプを囲み、煙がもうもうと立ち込める中、パイプをくゆらせ威風堂々と行進する愛煙家達。最近の禁煙ブームを知ったらさぞかし肩身の狭い思いをするかと思いきや、「禁煙ブームだって!?けっ、何言ってんだい。この一服のうまさがわからないなんて。この一服のうまさがね、フ〜(立ち上る煙)」とは最後尾の方からのコメントでした。[写真11]
錠をかけられ、俯きながら歩く黒人奴隷二人を引き連れた女性。そのすぐ後ろには、巨大な鞭を運ぶアメリカ南部の男達。イギリスは1807年に奴隷貿易制度を廃止しましたが、一方のアメリカは、1851年は南北戦争以前なので奴隷制度真っただ中。ドイルの筆致からは、アメリカと一線を画したイギリス側からの視線がうかがえるような気がします。[写真12]
行列もいよいよラストに近づいてまいりました。
締めくくるのは、参加主要国を象徴している動物の一団です。ここで先頭を行くのはアメリカの国鳥ハクトウワシ。イングランドの象徴ライオンはフランスの雄鶏とプロイセンの鷲と腕をからめながらの行進です。ロシアの熊はトルコのライオンとオーストリアの双頭の鷲と仲良く。インドの象の右側には犬のように見える2匹の動物、象の大きなお腹の向こう側にはカエルのような影が見えますが、何の動物か、どこの国を表しているのか定かではありません。そして取りを飾るのは、スコットランドの象徴ユニコーンです。[写真13]
ふうっ、全長2メートル75センチの長い行列でした。
登場人物は、ざっと数えても100人以上。(動物も数に入れました。)動物の一団のうしろには、浮かれ騒ぐ人々も見えますが、ひとまずここで終わりといたしましょう。それにしても、人々が自国をアピールしながら浮かれ気味なのに比べて、最後の動物達の、笑っているのか、何か企んでいるのか、何とも形容しがたい表情が気になります。いやはやさて、初の大博覧会へと向かう各国一行の真の胸の内は一体どちらに近いのやら。



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