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第5回ゲスナー賞選評

2008/12/27
第5回ゲスナー賞選評
主催:株式会社 雄松堂書店
協賛:社団法人 日本図書館協会  協力:株式会社 図書新聞

第5回目を迎えました雄松堂ゲスナー賞は、このたび178点と過去最高の応募をいただました。厳正なる審査にもとづき、各部門3点作品に銀賞が決定し、12月4日(木)スクワール麹町(四ッ谷駅前)にて授賞式が行われました。賞の授与、紀田順一郎、高宮利行、林望審査委員三氏による受賞作品の選評、受賞者の挨拶をもって式は進行し無事終了いたしました。関係者のみなさまのご協力に厚く御礼申し上げます。この頁では3人の審査員による選評を掲載いたします。今後書誌や書物の研究に関わる方々の研究のご参考にしていただけばと存じます。


講評の様子
受賞者のみなさん

総評
紀田順一郎氏
「本の本」部門 選評
高宮利行氏
「目録・索引」部門
林望氏

◆高宮氏に寄る選評は講演内容を編集したもの、紀田氏・林氏の選評は氏より原稿をいただいたものです。

総評 紀田順一郎氏

 今回のゲスナー賞応募作品は、いずれも力のこもったものばかりでしたが、その内容を分類すると別表のようになります。
 最も多かったのは「古本文化」関連の著書で、銀賞に推された八木福次郎さんの『古本薀蓄』を含む九点の応募がありました。これに次ぐのは「アジア文化圏」関連書(8点)と「図書館」関連書で、前者は中国図書ないしは漢字研究を含み、後者は図書館史からは地域図書館活動のレポートまで、各分野の重要な主題を網羅しているように思われます。
 以上の三分野は、じつはゲスナー賞の例年の傾向で、いわゆる「本に関する本」や書誌的成果を問う場合、最も多くの人々が念頭に想起する分野ではないかという気がしております。
 このほかの分野も例年必ず応募のあるもので、「辞書研究」5点、「近世関係」4点、「装丁、本づくり、装画美術」4点、「児童文化」4点、「美術カタログ」3点、「西欧関係」3点、「個人蔵書関係」3点、「個人蔵書関係」3点、「出版史」2点などが目につきました。このうち、美術カタログでは別に島本浣『美術カタログ論』という異色の論考がありました。個人蔵書関係では、草森紳一『本が崩れる』が蔵書の山と格闘する著者の苦労話として話題になりましたが、年余にしてその書庫において逝去したことが報じられ、個人蔵書を基盤に執筆活動を行ってきた世代の命運ばかりでなく、大部の群書の保存ということについて社会的対応が遅れていることへの注意を喚起したものと見るべきでしょう。
 出版史では小尾俊人『出版と社会』が昭和円本史を反面教師として、現今の出版界への警鐘を鳴らしている点で大きな意義を感じさせられました。
 そのほか、応募作品のいずれをとっても現今の出版事情のもとでは得難い収穫というほかはなく、関係各位に敬意を表すること、吝かではありません。今後ともこの分野の灯を絶やすことのないよう期待するものですが、このことに関して大変喜ばしいニュースがあります。それは本ゲスナー賞の過去の全応募作品(約2500点)が明治大学図書館に収蔵される運びとなったことです。本賞の意義を理解し、有意義に保存活用していただける教育機関を得たことは、当初から本賞に関係し、その発展を願ってきた私ども審査委員会の喜びでもあります。これを機会に、より広くゲスナー賞の意義が周知徹底され、より多くの応募作品が現れることを願ってやみません。

「本の本」部門
金賞:該当なし

銀賞:
和田敦彦著
『書物の日米関係 −リテラシー史に向けて』新曜社、2007年

八木福次郎著『古本蘊蓄』平凡社、2007年

オーウェン・ギンガリッチ著、柴田 裕之訳
『誰も読まなかったコペルニクス−科学革命をもたらした本をめぐる書誌学的冒険』
早川書房、2005年


「本の本」部門 選評 高宮利行氏

書物の日米関係
和田敦彦著『書物の日米関係 −リテラシー史に向けて』新曜社、2007年
『古本蘊蓄』
八木福次郎著『古本蘊蓄』平凡社、2007年
誰も読まなかったコペルニクス
オーウェン・ギンガリッチ著、柴田 裕之訳
『誰も読まなかったコペルニクス−科学革命をもたらした本をめぐる書誌学的冒険』
早川書房、2005年
受賞された歴代の作品を見るとわかるのですが、目録・索引部門は以前から、名の通った出版社もありますが比較的、地方の小さな所から出しているものが多いのに比べ、本の本部門は東京にベースがあり、名の知れた出版社が出している本が多く受賞しています。逆に言うとよく売れる、よく売ろうというねらいが出ている書物であることが言えます。今回、「本の本」部門も目録・索引部門と同様に金賞がなく、銀賞3点という審査結果でした。そのうちの和田敦彦著『書物の日米関係 −リテラシー史に向けて』とオーウェン・ギンガリッチ著、柴田裕之訳『誰も読まなかったコペルニクス−科学革命をもたらした本をめぐる書誌学的冒険』の2点は私の頭の中では書物史、History of the Book の中に入ります。これは新しい学問で書物に関する社会史といってもいいかと思うのですが、その中でも書物の需要史、つまり出版された本がその後の人々にどのように受け取られたか、という研究に入ります。

『書物の日米関係 −リテラシー史に向けて』を著した和田氏はわざわざ“リテラシー史”という新しいジャンルの名前を創作され、これにこだわりを持っているのだという感がしました。1940年に日米が戦争状態に入ると、アメリカ政府はただちに日本の語学訓練を始めます。さらに必要な情報を集めるため日本関係の書物を次々と図書館に入れて研究しました。それが一種の需要となりこれは戦争中だけでなく戦後も続いていきます。それをいかにして日本から書物がアメリカの図書館に入っていったか、その時どのような問題があったか、そしてそれがいかに需要されたかを研究した本です。はじめにこれを拝見した時は、アメリカにある図書館の日本科に所属している日本人図書館員が書いたのかと思いました。しかし実際は日本で教鞭を執られている大学の先生が書いていることを知り、驚くと同時に感動しました。そのまま博士論文になるような索引、注もちゃんと付いている書物であり、書物を作る立場としてはほぼ完成されたものと思いました。アメリカが日本を研究するために語学照校をつくり、勉強させていた一方、日本は逆に全く英語を排除しました。私の恩師などは電車の中で英語の本を読んでいただけで憲兵に引っ張られたという話です。情報戦となるともう結果は明らかだったのではないでしょうか。こうした日本の研究のおかげでルース・ベネディクトの『菊と刀』という本も生まれています。私は大学の時1966年に能の通訳として全米を回ったことがあります。その時色々な大学で出会った日本科の教授達に聞いた話が、今回この本の中に出てきて懐かしいと思いました。そういう意味で“リテラシーの歴史向けて”書かれている作品であると感じました。

その次の八木福次郎著『古本蘊蓄』は日本古書通信という、古書情報を定期的に発信するという仕事を長い間続けられた氏が、その間に書き溜められたものをまとめたもので、主に日本の古書について蘊蓄を語っています。その他にも八木氏はたくさんの著作を出されているので、今までのご努力に顕彰をしたいということで銀賞となりました。このような雑誌、新聞はなかなか長く続かないものでそれは海外にも言えることです。海外で似たような雑誌としては少し固いもので、The Book Collector という雑誌が季刊で出ています。これが一番信用のできるもので、半分が情報、半分が書誌学といった内容です。ニコラス・バーガーという有名な編集長の出している非常に癖のある、しかし面白い雑誌で長く続いています。しかし彼も50年は続けていないと思います。ですから八木氏の仕事は大変なもので、これからも元気で続編、続々編と是非出していただきたいと存じます。

最後にオーウェン・ギンガリッチ著、柴田裕之訳『誰も読まなかったコペルニクス−科学革命をもたらした本をめぐる書誌学的冒険』。非常に挑戦的なタイトルの書物です。私はたまたま、早川書房から送っていただきましたが、夜も寝ないで一読して大変感動し、ただちに私の書物の授業で参考書にしました。何しろタイトルが面白い。このギンガリッチ氏はハーバード大学の天文学の教授であり、ワシントンにあるスミソニアン天文台の館長です。要するにアメリカの大学における天文学の権威ともいえる学者です。氏が若いとき1950年代に読んだある著作の中で、かの有名なコペルニクスの書物がラテン語で書かれており難しすぎたため、本当は余り読まれなかった、版があまり重ねられてないので総部数はたいしたことがない、天動説の方が読まれていたのではないかいうことが書かれていました。地動説が出てきたら天動説はすぐに読まれなくなっただろうと我々は思いがちですが、中世につくられたサクラボスコの天動説はずっと版を重ねています。だから大学の中でも地動説と同時に天動説も読まれていたわけです。この書物を読んだあと、ギンガリッチ氏はエディンバラの天文台で初版のコペルニクスを手に取る機会があり、ありとあらゆるところに書き込みがあることを確認しました。「しっかり読んだ人がいる」ということでギンガリッチ氏が若い頃にそういうことを体験したことはとてもすばらしいことではないでしょうか。それから50年くらいにわたり彼は学会の折などコペルニクスの初版、再版があるとその現物を全部見るようになりました。それから古書店などで鑑定をたのまれるほどになる経過、コペルニクスの盗品などが出ると裁判に証人として出廷したエピソードなどが全部この本に収められています。この本は氏がコペルニクスの初版と第2版のしっかりした書誌を、オランダのライデンから出版する際に副産物として書いた本です。ですから一般向けの本といえるかもしれません。科学の著作というものがどのように需要されてきたのか、探偵小説を読んでいるようなおもしろさもあり、理系が苦手な人でも楽しめます。是非おすすめしたいと思います。
この本の後ろにはコペルニクスがどこにあるのか全てリストが付いています。このリストを見たときコペルニクスが慶應の図書館にあるはずなのに慶應の名がないことに気が付き、ただちに図書館に行って調べたところ、確かに第2版があり、この本にもたくさん書き込みがされていました。それをデジカメで撮り、ギンガリッチ氏に送ったところ、彼のノートには記されておらず、この本のことは知らなかったということでした。そうなるととても怪しい。これが慶應に入る前にどこにあったのか、ひょっとしたらあぶないコピーではないだろうかということで現在鑑定中です。ギンガリッチ氏はかなりお年ですが、色々な形で講演をしています。イギリスにも年2度くらいはお見えになると聞きます。Owen Gingerich で検索をすると彼がこの本を出したときにした講演が全部ビデオで見ることができます。もう一つ柴田氏の訳がまたすばらしい。しかも原作が出た直後に翻訳を出されています。非常に速いお仕事をされています。

この3冊の本の本部門の受賞作はどなたでも読んで面白いと思いますので是非、ご一読をお薦めいたします。

「目録・索引」部門
金賞:該当なし

銀賞:
鳥取県立博物館編集
『沖一峨 −鳥取藩御用絵師−』
鳥取県立博物館、2006年

鈴木俊幸編
『増補改訂 近世書籍研究文献目録』ぺりかん社、2007年

人名情報研究会編著
『「人名辞典」大事典』日本図書センター、2007年

「目録・索引」部門 選評 林望氏

鳥取県立博物館編集『沖一峨 −鳥取藩御用絵師−』鳥取県立博物館、2006年
鈴木俊幸編『増補改訂 近世書籍研究文献目録』ぺりかん社、2007年
人名情報研究会編著『「人名辞典」大事典』日本図書センター、2007年
1鳥取県立博物館編『鳥取藩御用絵師 沖一蛾』
鳥取県立博物館刊

寛政8年に生まれ、おそらく文久元年に没したと見られる(一説には安政2年没)鳥取藩代々の御用絵師、沖一蛾の全貌を伺う特別展の図録。特別展は平成18年10月7日から11月5日まで、鳥取県立博物館で開催された。近年は、こうした特別展の企画に出色のものが多く、またそれに伴って、見るべき図録が用意される例が豊かに見いだされる。一蛾の全貌を伺うべき特別展はこれが初めての試みで、これによって、今までやや隠れた絵師であった一蛾に、光をあてた功績は大きい。
 なおかつ、この図録の主筆とすべき山下真由美氏の概説、および『沖貞家譜』『江戸御用部屋日記』の抜粋翻刻は非常な労作で、この絵師の業績履歴等につき、示唆するところが絶大である。こうしたものは、一見すると簡単なようだが、実はとても手間ひまのかかる仕事で、図録というものの性質上、ここまで踏み込むものは少ない。それだけに、これらの資料を加えたことの意味は多く、かれこれ銀賞に価するものと判定した。
 ただ、これが特別展の図録で一般書籍としては入手できないことや、装訂や印刷画質などに、もう一工夫あってもよいというようなことも含めて、金賞にまでは該当せずということになった。

2、鈴木俊幸編『増補改訂 近世書籍研究文献目録』ぺりかん社刊

本書は、その書名にも明示してあるように、1997年に刊行された『近世書籍研究文献目録』の、増補改訂版である。近世の書籍についての研究や目録、あるいは図録、零葉集など、およそ考えられる限りの、書籍研究書や論文などを、編集過眼の限りにおいて、集成分類して列挙した目録で、その長年にわたる労作であることは、脱帽するにやぶさかではない。
とりわけ、江戸期の版元研究がこのような形で一覧検索できるというのは、非常にありがたいところで、また文学・歴史の研究に資するところは決して小さくない。
 こうしたものは、毎年毎年該当項目が増加していくのが当然なので、何度修訂しても、完全なものを作ることは不可能であり、常に「ある時点までの成果」であることをまぬがれない。それゆえに、また数年のうちには増補再訂を余儀なくされるに違いない。
 そういうところからすると、こうした冊子体の目録としてよりは、サーバー上のデータとして、有料公開するというほうが、むしろ逐次増補改訂できるだけ有利かもしれない。
本書は、原編書のときは、人名索引が付せられていたが、本書では省かれている。これは
「目ざす項目に行き着くための検索方法として「著者」という指標はあまりに頼りないと考えたからである。また文献の数が増えて(しかも、一つの文献がさまざまな項目に重複して配置されているため、さらに増加している)1人の著者名の下に番号が山のように並んでいる図は、想像するだけでもいらいらするし、紙の無駄であろう」
というのがその理由だとする。たしかにその気持は分からぬでもないがそれでも、やはりこれが一種の書誌目録である以上、使用する人は学問的目的に限定されるので、かかる学術出版の必須条件として、索引はあらまほしい。
 たしかに著者のいうように、これがもともと個人的備忘のためという目的で編まれたものの末であるというところから、同じ論文の重複掲出が著しいとはいえ、それはむしろ当然である。そういう性格からしても、今後は冊子体目録の他に、ネット上の情報公開というような方法もぜひ模索してほしい。
 そういう意味で、むしろこれからどのように発展させて今後もっとも便利な形に至るかということを期待しつつ、今回は奨励賞的な意味で銀賞に選定した。

3、人命情報研究会編『「人名辞典」大辞典』 日本図書館センター刊

近代以降の考え得る限りの人名辞典、人名録、伝記集成等を網羅的に集積したもので、データをどのように扱うかで、上巻「ジャンル別編」下巻「地域編/外国編」と2冊に分冊したもの。そうして、なお下巻に付するに総索引を以てする。
地方人名録などまで丹念に拾った膨大なデータの集積には圧倒されるものがあり、それぞれの書誌データも、かなり忠実に記載してあって、十分に有益の書である。
しかしながら、このデータの配列、「ほぼ刊行年月順とした」とあるのだが、書名よりも刊行年次を優先して、コンピュータで機械的に処理したために、たとえば、『近世畸人伝』を例にとると、155頁の左段、同右段、156頁の左段、157頁の右段とあちこちに分散していて、実際にその刊行の全貌がみえにくい。やはり、同じ書物は一箇所にまとめて、その書名項目内での刊行順配列などの配慮があってしかるべきかと思われる。
 したがって、これも手間ひまのかかった労作であることは評価するものの、いまひとつ機械的なところがあって、ゲスナー賞の金賞には届かないと評価した。


73号 2008/12/27
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