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■「本のある人生」は点が線になる
さて、今までは私の家族の少々普通の人と変わった「本のある人生」を紹介しましたが、今度は第2部として、若者と本との出会いを作ろうというテーマでお話させていただきます。一番てっとり早いのは学生の首根っこを捕まえて読ませるという手段です。若手教員と一緒にホメロス、ヴェルギリウス、ダンテから近代まで百冊以上の必読リストを作って課題として与えて読ませる。するとまじめな学生は読み始めます。読み始めると面白さに気付いて、感想を書きますし、研究発表にもよい影響が出てきます。
私は常日頃から自分の早い段階で文化的、文学的「点」をたくさん見つけなさいと勧めてきました。そうすればまたいつか「点」を見つけた時、それが結びついて「線」になるはずで、その喜びで人生が充実していくのです。それを繰り返せば「線」が重なって「面」になる。場合によっては「立体」になることもある。そこまで行けば大したものです。このためには、若いうちにたくさん本を読み、知識を仕入れて、「点」を作るべきだと学生達には話しています。そうするとたまには、点と点が線になったという学生が出てき、うれしそうに報告してくれます。
■神保町の楽しさを学生に
次に、神保町の古書ツアーを企画、実行します。神保町でお茶ぐらいごちそうするからと人参をぶら下げて、先着5名集まれとメーリングリストに送りますと、参加する学生が集まります。その連中を連れて神保町で私の好きなコースを回るのです。豆本専門店や児童書専門店、あるいは古書モールと言って文庫本なら4冊100円で売っているようなところに出かけ、そういう場で時間を過ごす楽しみを教えるのです。そうしますと、中には週に2回くらい通う学生も出てきます。
神田の古書店で顔なじみになっている学生は、かなり私のところの学生が多いようです。幸いなことに神田の古書店の主人には慶應の出身者が多いため、もし母校の学生がきたら少し割引してくださいと頼んでおきますと、やはり先輩ですからまけてくれるのです。そうすると学生は喜んで通い始め、そうした繰り返しによって古書の世界、本の世界にのめり込んでいきます。書物狂とは1回とりつかれたら永遠に治らない病と、『書物の敵』の著者ウィリアム・ブレイズは言っています。
私は、その他に、慶應の文学部のカリキュラムの中で、書物の歴史に関する授業を組み込み、「書物の世界」「一冊の本」あるいは新しい技術を使った「デジタル書物」などタイトルを変えて講義やオムニバス授業を行ってきました。
■図書館との連携
今までは図書館と学部の授業が独立してきました。私は週に何度も選書課に足を運び、予算の余りを目当てに、本の購入をお願いしていました。すると2月くらいになりますと電話がかかってきまして、少し予算があまっているとの連絡がきます。そうして買ってもらった良書を、ただ秘蔵することだけが図書館の使命ではないのではないと考え、例えば慶應義塾大学図書館のコレクション研究を大学院の授業に取り入れる試みをしています。古書カタログの読み方を教え、目録解題の取り方を教えます。また、今日のゲスナー文庫の展示会のように解説付きの小さな展示会をやります。そしてその解題は私の監修のもと学生にやらせる。そうすると学生も力が入ります。このように私たち教員と図書館が連携していくことが重要なのではないでしょうか。
■愛書家クラブ発足とブック・コレクティング・プライズの企画
それでもまだ足りないと思い、私は数年前に慶應義塾大学で愛書家クラブを発足させました。これはケンブリッジ大学でもオックスフォード大学でもやっています。講演してくださる方も関係者にお願いし、会費を無料にして教員、学生が一緒になって、本に関する話を聞きます。ここでは佳境に入るとワインを出します。すると普段見られない教授の顔が見られることに学生も喜びます。そして最後にオークションを開きます。大学の教授は大抵、重複本を持っていますからそれを供出していただき、学生にも書誌的なことを教えておいて競売の真似事をします。ここ数年で若干の基金ができました。それを使って学生のためのブック・コレクティング・プライズを作りたいと思い、図書館と検討中です。
このブック・コレクティング・プライズは、ケンブリッジ大学をはじめ、アメリカの主要大学にはあるものです。どういうものかと申しますと、学生に自分の好きなテーマでコレクション・ビルディングをさせて、そのカタログも作らせて審査し、一番面白いものにプライズとして賞金を与えます。費やした金額は問いません。そうすれば学生も就職の時に履歴書に書けますし、受賞した学生は賞金をもらっても、また本を買うはずですからよい循環にもなると思います。海外の古書店で活躍している古書業者の人で、アメリカの大学で学んだ時2度このプライズをとった人もいます。このようにして、生まれてから死ぬまで治らない古書熱にかかる人を早い段階で作りたいと思っています。
■本に出会えれば・・・
そこでせっかく神保町に隣接しているのですし、明治大学でもこれらの仕掛けをやってもらえるなら、私たちもぜひ協力したいと思います。古書店の店主から面白い話を聞いて、若いうちに古書好きになってもらえれば、ずっと続くはずです。そういうことの最初のカリキュラムとして色々な物を組み込んで、書物のおもしろさを先生方にも教えていただく。経済史の先生だって西洋哲学史の先生だってみんな書物の知識があるはずです。今日のゲスナー文庫の展示にも明治大学が所蔵しておられるすばらしい稀覯書が並んでいます。そういうものを教材として使ってみてはどうでしょうか。学生をいかに盛り立てていくかを考えれば、古書店だって喜びますし、学生だって得をします。そして本のある実りの多い人生を送れるのです。
私が学生達にこのような本との出会いの場を作ったのはここ5年くらいの話です。退職前になにかやっておかないと、本好きの学生が出てこないのではないかと考えたからです。もちろん生来本好きの学生も中にはいるでしょうが、こちらが少し手を貸してあげると、彼らの関心はずっと伸びます。ここにいらっしゃる方でも私のような立場にある方がいらしたら、ぜひ学生達を激励してほしいと思います。
最後になりますが、慶應の国文科教授だったに池田弥三郎氏は「本に出会えれば、1人の一生で何人分もの人生を楽しめる」とおっしゃいました。ですから「本は手元に置いたほうがいい」ということを本日のお話の結論とさせていただきたいと思います。
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