雄松堂書店出版事業部歴史東亜同文書院大旅行誌

オンデマンド版 東亜同文書院大旅行誌 全33巻+解説1巻

愛知大学創立60周年記念事業

『東亜同文書院大旅行誌』のオンデマンド出版にあたって

 
愛知大学学長 武田信照

 愛知大学は2006年11月に創立60年を迎える。この60周年を記念する事業の一つとして、『東亜同文書院大旅行誌』(以下『大旅行誌』)をオンデマンドの形で出版することとした。

 愛知大学は、かつて中国は上海にあって、第二次世界大戦の敗戦によって閉校となった東亜同文書院大学の関係者が中心となって創設された大学である。東亜同文書院はいわば本学の前身校に相当する。本学は、同文書院関係の資料も多数を保有しており、一部は東亜同文書院記念センターに展示収蔵され、一部は図書館に収蔵されている。後者には同文書院生による中国踏査の大旅行関係資料も含まれる。『東亜同文書院大旅行誌』原本

 日中提携の人材養成を目的として建学された東亜同文書院は、戦前海外に設けられた高等教育機関としては最も古い歴史をもち、ここから日中関係に貢献する多くの人材が育った。実学を旨とする同文書院の教育上の特色を象徴するのは、半世紀近くにわたって実施され、700コースにも達する卒業年次生による数カ月におよぶ大調査旅行であった。この調査旅行の成果には、卒業論文ともいうべき『調査旅行報告書』と日誌風の『大旅行誌』とがある。前者は『支那省別全誌』などの元となり、後者も卒業記念として毎年単行本として出版された。いずれも当時の中国の実情を伝える資料として貴重なものであるが、今回オンデマンド出版をするのはこの後者『大旅行誌』である。『大旅行誌』はすでにマイクロフィルム版としては広く利用可能となっているが、今回の出版によって全33巻+解説1巻を書籍の形で刊行し、しかもどの一巻だけでも入手できることになる。

 今回の出版にあたって、一点触れておかなければならない。それは当時の風潮を反映して、中国や中国民衆に対する差別的な表現が散見される点である。『大旅行誌』はいまや歴史的資料であり、その意味で手を加えることをしなかったが、それは決してこうした表現を容認肯定しているということではない。その点をご理解いただきたいと願うとともに、今回の出版によってこの歴史的資料がさらに広く活用されることを期待している。

『東亜同文書院大旅行誌』とは

 
愛知大学東亜同文書院大学記念センター
運営委員長
 藤田佳久

日中の優秀な人材を育てた東亜同文書院
 東亜同文書院は、1901年に日中貿易の実務担当者および日中提携の人材を養成するビジネススクールとして上海に誕生した。日清戦争後、中国に対するイデオロギー的関心が高まり、様々な政治団体が結成されたが、それとは趣を異にし、日中の具体的相互理解をめざし教育文化交流事業を行った団体、東亜同文会によって設立された。その特色は徹底した中国語教育と実地調査であり、最終学年の中国国内長期踏査旅行『大旅行』の発展とともに、次第にアカデミックな性格を増し、1939年に大学に昇格した。第2次世界大戦後は閉学を余儀なくされたが、1946年愛知大学として再生され、現在にいたる。同大学では東亜同文書院大学記念センターを設置し、当時の詳細な資料を展示している。

20世紀前半中国の多面的なドキュメント
 当時の中国は清朝末期から民国時代にあたり、現代中国の基礎を形成することになった混乱期にあたる。その時期に系統的組織的に半世紀に及んだ中国調査研究が行われたことは、他に例がなく、地域調査の規模も世界最大級であり、高く評価されてよいと思う。また「大旅行」は、その内容から五期に分けることができる。第1期生〜第4期生の修学旅行的な模索期、第5期生〜第16期生の前人未到のコースを求めての拡大期、第17期生〜第28期生の研究テーマを設定して深化をみせた円熟期、満州事変による日中間の緊張の中で次第に制約を受けた第29期生以降の制約期、大学昇格にもかかわらず、臨戦体制下で次第に調査旅行が難しくなった第38期生以降の衰退・消滅期である。今回出版される「東亜同文書院大旅行誌」は、第5期の拡大期から第40期の衰退期までほぼすべてを網羅している。また「大旅行」の記録には、卒業論文にもなった「調査旅行報告書」と日誌風の「大旅行誌」があるが、構えずに書かれた大旅行誌の方がより生き生きと中国の実情を伝えている。研究テーマは、産業、交通、人口、教育、社会組織、災害など多岐に渡り、史料的な価値が非常に高い。転換期を迎えている現在の中国を理解する上でも、大いに役立つと思われる。


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