「新異国叢書」第III輯の刊行を慶ぶ

  高瀬 弘一郎(慶應義塾大学教授)


 戦前「異國叢書」という大変ユニークな史料集が出版された。近世日本と交渉があったポルトガルやオランダ等ヨーロッパ諸国の日本に関する基本史料の邦訳である。村上直次郎訳『耶蘇会士日本通信』『異國往復書翰集』や岩生成一訳『慶元イギリス書翰』もこの叢書であった。私も学生時代以来、本叢書をどれ程利用したか知れない。戦後、恐らくこの「異國叢書」を凌ぐ文化遺産をという自負を抱いて、雄松堂が「新異国叢書」第I輯全15巻を刊行したのは昭和40年代である。早くも30年余り経過した。この間第II輯全10巻も出版された。
 近く「新異国叢書」第III輯全10巻が刊行されると言う。内容は、I・II輯と同じ路線の延長で、近世・近代の日本に関する外国人の記録の邦訳である。原著者はオランダ人が多いが、アメリカ・イギリス・プロイセン等各国人に及び、更に立ち入って見ると、商館長・宗教家・外交官・自然科学者・旅行家等まことに多彩である。総じて鋭敏な感性を備え、日本の文物に強い関心を抱き、貪欲に観察し紹介していると言えよう。
 日本文化についての外国人の著作を読む事は、日本国内の史料だけに埋没していることによってとかく陥りがちな弊を脱して視野を広げ、新鮮な着想を得る最善の道だと言ってよいであろう。できたら原文で読むのが一番よいが、各国語にわたる場合それはなかなか無理であろう。良き訳書を介するという次善を採らざるを得ない。外国人の視線からの日本史研究の史料として、本叢書I・II輯が果した役割は計り知れない。読み物としても面白い。さらに第III輯がこれに加わり、一段と内容が豊かになるのは誠に喜ばしい。
 良き原著が選定され、優れた訳者に恵まれることの二つが、この種の作品の成否を分けると言ってよいであろうが、本叢書第III輯の10巻はいずれも優秀な訳者による訳業である。また原著はどれも、I・II輯に比して一段ときめ細かく選定されたと言えるようである。史料的、記録的著作の翻訳には人知れぬ苦労が伴うものである。訳者の方々のご苦心に想いを馳せながら、今回の「新異国叢書」第III輯の刊行を、広く歴史学界・読書界のために慶びたい。


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