Introduction of the Book

◆「私に即し」「私を離れる」──晩年の志賀直哉

 「白樺」の関係者の総合的研究、というのが私の卒業論文以来の夢であり、その中軸に志賀直哉を据え、同時に「白樺」全160冊を丁寧に1冊1冊繰りながら、その仕事にながらくかかわってきた。
 「白樺」の同人には、有島武郎や木下利玄、また郡虎彦など2、3人を除くと総じて、長寿者が多かったので、武者小路実篤・・有島生馬・園池公致らには直接会うことも出来、お宅にもしばしば参上した。志賀直哉の場合、渋谷の常磐松に居を移されてからは、電話で都合をお聞きすると、この日か、あの日か、というようなうちあわせはほとんどなく、今すぐきたまえ式のことが多かった。その際収集してきた私の志賀直哉本を、1、2冊持っていき、話のあいまにさっと取り出し、甘えて、恐縮しながら署名をお願いした。晩年の志賀直哉は、晴朗にして快活、かつての作品にも出てくるような過敏で神経質、快と不快をあらわに示すということはなく、「私に即し」「私を離れる」という東洋的文人の雰囲気がつねに漂っていた。



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