Introduction of the Book

◆戦時下の特別本『暗夜行路』(全編)

暗夜行路 別の日に私は座右寶版の大判の『暗夜行路』を持っていった。小林古径の題簽、装幀で、見返しは梅原龍三郎、なかには古径はじめ多くの人の絵も挿入されている。戦時中の「昭和十八年十一月」の本だが、この時期としては特別本といってよい。『暗夜行路』後篇が、長い間の断続を経て改造社版の九巻本『志賀直哉全集』刊行にあわせ、大山の最終場面が遂に完結、その全集に入れられたのだが、単独の単行本としては、この座右寶版がはじめて、ということになる。志賀直哉はその本の「武者小路実篤兄に捧ぐ」という献辞のページの右下に、これまた太くたくましい筆致で、タスキのない と署名、右横に「志賀直哉」の印を力強く押された。その時も康子夫人がかたわらにおられ、さっと用意された。これは日本近代文学館創設当初であったろうか。すでに80歳を超えておられたが、その字の強さは、いかにも衰えを知らぬ志賀直哉そのものであった。



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