ゴヤ 銅版画集「気まぐれ」

─堀田善衛「ゴヤ」四部作を携えて─

「気まぐれ」とゴヤの知略
「全世界の画家」への脱皮
アルバ公爵夫人との恋愛によって
「気まぐれ」刊行へ
想像力と知略を携えて


■「気まぐれ」とゴヤの知略

38番「万々歳」
38番「万々歳!」

猿がギターを弾いてメス驢馬をうっとりとさせている図。これは時の宰相ゴドイが王妃マリア・ルイーサをたぶらかしているもので、「王と王妃の三位一体の三角関係」の象徴的揶揄である。

18世紀末の「スペインの光と影」を凝縮させた版画集と言われているこの版画集は、当時開発されたアクアティンメント(腐蝕銅版画の一種)を駆使した、陰影のある、光の効果が十二分に生かされた作品である。ゴヤに対して何の知識を持たぬものにさえも、作品の底辺にある芸術家の力量に圧倒されるだろう。しかし、一通り彼の芸術性に感嘆した後、冷静になってこの作品を見ると次々と謎が生まれてくる。先「気まぐれ」という題名からしてどの様な意図を含んでいるのかにはじまり、頁をめくるごとに疑問が後から後から出てくるのである。

 「気まぐれ」を理解するため、堀田善衛の「ゴヤ」4部作(新潮社版)を紐解いてみると、「気まぐれ」が「気まぐれ」でない、とんでもない版画集であることに気が付くのである。したたかな、ふてぶてしい、ゴヤの風刺の結晶なのである

 堀田善衛の「ゴヤ」4部作を読了してはじめて、この版画集の冒頭に、トップ・ハットをかぶった、皮肉っぽい「宮廷画家」のゴヤの自画像が来たことの深い意図に気が付いた。「気まぐれ」は気まぐれに描いたデッサンですよ、何をガヤガヤ騒いでいるのですか、と横顔を見せてつぶやいている、ゴヤの知略を垣間みたのである。

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