Vol.100 17年を思い起こして

日本国内でインターネット時代が一気に開花した1998年10月に開設した雄松堂書店のホームページでこのコラムを開始し、以来、隔月で発表して、この4月でちょうど100回になりました。振り返ってみますと、日本出版協会で国際委員長をさせていただき、また海外から書物を輸入している業者の唯一の団体である日本洋書(輸入)協会の発足や、海外の著名な古書店の強い勧めにより国際古書籍商連盟(ILAB)に参加するために、日本の老舗古書業者に参加していただいて日本古書籍商協会(ABAJ)を発足させるなど、気が付けば、本に関する事業に、さまざま、それも外からではなく内部から関係してきました。おかげさまで世界中に多くの人脈を持つことができました。本に関わる仕事はもともと地味なもので、大げさなことではありませんが、最近の、IT革命が一気に押し寄せてくるまでの自身の経験を活かし、本や図書館に関する仕事やイベントの調整役をさせていただきました。100回を迎えて過去のコラムを読み返してみました。本当に大きな変化が連続した17年間でした。この17年間の書籍業界を一口であらわすなら、少しずつ下降線をたどり、IT時代に入っても誰も「夢の時代」を描くことができないまま過ぎた、といったところでしょうか。
 

本屋らしい本屋でありたい

ちょうど5年前に当社は、都内数か所に分かれていた事業所を統合して現在のビルに移動して再出発しました。その際に全社員が再確認し、共有したモットーは以下の通りです。

  • ‘本’の無い社会はありえないことを確信し、世界を視野に他ではできないことに挑戦する。
  • お客様の支持なくして成功はありえない。社員の幸福もない。
  • 仕事を楽しむ。一歩後退する勇気、二歩前進する勇気。
  • 良い企業をめざす。

本そのものの形態は急速に変化しています。版元は? 小売店は? 図書館は? 数年後の変化の波はさらに進んでいくでしょう。それらが人々にとって幸せなことなのか?と考えざるを得ません。人に、雄松堂はどんな仕事をしているのですかと聞かれれば、私は迷わず誇りを持って「本屋です」と答えます。
 

日本が西欧化すると想定したのは間違いだったのか

アンドレアス・ヴェサリウス: 「ファブリカ」

アンドレアス・ヴェサリウス: 「ファブリカ」

1960年代初めに私は当時としては幸運にもアメリカで学び、書籍関連の仕事の現場で研修する機会を持ちました。そこでアメリカの書物の流通、古書市場、夢のような大学図書館を目のあたりにしました。若い目で見た欧米への憧れは、きっと日本もこうなると確信に繋がり、本の輸入業こそ絶対に成功するビジネスであると信じて、この50年間ほとんど休むことなく仕事に熱中してきました。もちろん、この選択が間違っていたとは思っていません。多くの書物を輸入して日本国内の大学図書館を中心に納めさせていただき、日本市場は海外の出版社や古書店から超大事な市場として認知されました。
しかし現在、私の心の中のどこかに、日本の文化を発掘して商品化すること、そしてそれらを海外市場に提供するという大事な仕事を疎かにしていたのではないかと反省する気持ちが少しあるのも事実です。グローバル化とは日本の西欧化だけを意味するのではないと思っています。日本は日本らしい、世界から認められる文化立国を目指すべきです。書店として、また版元として、この気持ちを忘れずに今後の選択をしていく心づもりです。
日本が西欧化することは正しい選択ではありません。
 

イベントの報告

会場入口

会場入口

弊社ブースの様子

弊社ブースの様子

去る3月5日から7日まで、東京のホテルグランドパレスに於いて、以前にも若干ご報告した日本古書籍商協会(ABAJ)創立50周年を記念する大規模なアンティークブックの展示即売会が開かれました。海外からも20店ほどの著名書店が出展しておりましたので、マスコミにも大きく取り上げられ、盛況のうちに終わりました。大きな売上のあった書店もあったと聞いております。昨今のお金の動きの中にみられる「お金よりモノを」という傾向が影響したのかもしれません。雄松堂は50年前、ABAJ発足の原動力となり、その後も同協会の事務局としてお手伝いをしてまいりましたので感慨無量なものがありました。展示会の前夜祭として海外から来られた書店関係者を中心に40名ほどを当社のショールームにお招きし「寿司パーティー」を開き歓迎させてもらいました。

最近イタリアで高額図書の盗難事件が起き話題になりました。またフランスでは大型ファンドがフランスの歴史上の著名人の肉筆類を一気に購入し、それに10倍以上の値段を付けて大掛かりなPRを行い、高額の古書類は投機の対象なのかとフランスらしい話題となりました。それに対し私は「古書は投機の対象ではありません。しかし、しっかりと保存しておけば値段が下がるようなことは絶対にありません」と答えます。

 

"Audubon, Birds of America"

“Audubon, Birds of America”

昨年末当社が刊行したオーデュボン『アメリカの鳥』のファクシミリ版は、世界中の話題となりました。3月末IPA(国際出版連合)がバンコクで総会を開いた際には、国際共同出版と日本の製本技術とのコラボレーションということでセッションでも取り上げられました。今後の世界の出版界で、日本の高度な印刷技術や造本などは日本の板元の役割になるかもしれません。
2015年、今年も雄松堂は、海外の版元や書店の協力を得ながら大型で世界市場に通用する書物を創造してまいります。

 

2015年4月
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